「南洋戦・フィリピン戦」被害・国家賠償訴訟 那覇地方裁判所判決(棄却)について

 2018年1月23日、那覇地方裁判所は「南洋戦・フィリピン戦」被害・国家賠償訴訟で、被害原告の訴えを却下する判決を出した。戦後70年余りたってなお、一般民間人の戦争被害が救済されないことが許されてよいはずがない。弁護団と原告は、判決後、記者会見を行い、「ドイツ、イタリアでは戦後、法律を作り、一般民間人を救済している。なぜ、日本でできないのか。国家無答責を理由に請求を退けたのは、司法の責務放棄だ」などと訴えた。以下、その時に出された原告団弁護団声明を紹介する。(20180124machikiso's blogから)


             声明
―「南洋戦・フィリピン戦」被害・国家賠償訴訟 那覇地方裁判所判決(棄却)についてー
 本日(2018年1月23日)、那覇地方裁判所民事第1部合議A係(劔持淳子裁判長)は、先の南洋戦・フィリピン戦で被災した一般民間戦争被害者45名が原告となって、戦争損害について国に対して謝罪と1100万円の慰謝料を請求した「南洋戦・フィリピン戦」被害・国家賠償訴訟につき、原告らの各請求を棄却した。不当判決である。

1.原告らは、請求の根拠として、日本軍の残虐非道行為と、米軍との玉砕戦による戦闘行為とその結果生じた生命侵害・身体侵害・精神侵害の被害事実を主張・立証し、この事実を基礎として、①日本軍の違法な公権力の行使に対する民法不法行為責任、②公法上の危険責任、③国会が被害の救済法を制定せず長期間放置してきた立法不作為責任、憲法14条で定める法の下の平等原則違反等を主張した。特に精神的被害事実については、28名の原告が「南洋戦・フィリピン戦」に起因する戦争PTSD (外傷性精神障害)と診断された事実を、専門医の鑑定書と診断書の提出により立証した。
 これに対し、判決は、原告ら45名が戦争被害を受けた事実、28名の原告が戦争PTSDと診断された事実を認定し、原告らの心労や労苦が、その内容は様々であるにせよ、おしなべて筆舌に尽くし難いものであったことは明らかであり、こうした苦痛や労苦は、軍人軍属及び戦闘参加者を含む準軍属並びにその遺族らのものと本質的に違いはないということができる。したがって、原告らが、被告においては、原告らのような一般民間戦争被害者に対しても、軍人軍属等と同様に、立法により救済や援護をすべき義務があると主張することも、心情的には理解できるところであるし、政策的観点からは、そのような見解も十分にあり得るところであるとした。

2. しかし、①民法不法行為責任については、明治憲法下の国家の権力的行為について国は責任を負わないとするいわゆる国家無答責の法理により否定し、②公法上の危険責任については、法的効果を導き出すほどの具体的根拠に乏しい抽象的概念であるとして否定し、③立法不作為責任については、立法府の裁量判断に委ねられているとして否定した。④軍人軍属との差別や戦闘参加者と認定された一般民間戦争被害者との差別が憲法14条の法の下の平等原則に違反するとの主張については、不合理な差別とはいえないとして否定した。
 これら請求棄却の理由は、被害が甚大なものであることを認めながら救済を否定する不合理なものであって、法律の適用を誤り、日本国憲法基本的人権規定に反する不当判決である。

3. また、原告らは、「南洋戦・フィリピン戦」におけるアメリカ軍の軍事行動の国際法違反行為として、次の2点を主張・立証した。
( 1 )アメリカ潜水艦・航空機による民間船舶に対する無警告・無制限攻撃は、パリ講和会議の戦争法規慣例及びワシントン条約による砲撃等の禁止に違反する
(2 ) アメリカ軍の住民居住地等に対する無差別じゅうたん艦砲射撃は、戦時海軍砲撃条約等に違反する。
 これらの主張について、判決は何ら事実認定及び法律解釈をすることなく、判断を回避した。
 原告らの主張に対して応答をしない裁判所の態度は極めて不誠実・無責任であると言わざるを得ない。

4. 判決は、原告らの被害事実として、艦砲射撃や銃撃、空襲、戦争下での栄養失調等による親族の死亡や、本人の負傷、戦争孤児となったこと、戦争PTSDとの診断を受けたことなどを認定している。判決が認定した戦争被害の実態は、いずれも極めて深刻かつ重大なものである。その深刻な被害がいまだ救済されることなく放置されていることは、決して容認できるものではない。
 先の南洋戦・フィリピン戦は日本の敗戦が決定的になっていたにもかかわらず、国体(天皇制)護持と日本本土防衛のために南洋諸島・フィリピン群島に住む国民の命を犠牲にした捨て石作戦(玉砕戦)であったことは歴史的にみて疑う余地がない。その強いられた玉砕戦争によって、南洋諸島・フィリピン群島に住んでいた日本国民10 万人のうち、沖縄県出身者8万人中2 万5000人以上が命を奪われ、戦争孤児も多く発生し、身体的障害者及び戦時・戦場体験に起因する心的外傷後ストレス障害(PTSD)など精神的後遺障害者が現在も発生している。今も原告らとその家族は戦争の惨禍に呻吟し続けている。「南洋戦・フィリピン戦」は、国の謝罪と被害の全面救済がない限り終わるものではない。

5. 明治憲法下でも保障されていた生命・身体・精神に対する戦争被害は人類普遍の原理である基本的人権の根本的破壊である。先の大戦は日本が開戦し、遂行してきたことは自明のことであり、日本国はその戦争によって被った国民の被害について謝罪し損害賠償する法的責任を負うことは、原告らがこの訴訟の中で法的主張を行い、証拠でもって立証してきたとおりである。

6. 被告国は、先の大戦の被害について恩給法・援護法を制定して、軍人軍属には総合計60兆円の補償を行ってきたが、一般民間戦争被害に対しては全く補償を行ってこなかった。南洋戦・フィリピン戦の一般民間戦争被害については、その一部の一般民間人については戦闘参加者として戦後になって認定し補償を行ってきたが、約l万7000人の死者と多数の後遺障害者に対しては謝罪も補償も行うことなく放置している。ここに軍人軍属との差別に加え、一般民間人の中にも差別が生じている(二重差別)。そこで、この放置された一般民間戦争被害者が、人生最後の願いとして国の謝罪と補償を求めたのがこの訴訟である。
 にもかかわらず、那覇地方裁判所は原告らの切実な請求を棄却したのである。基本的人権救済の最後の砦であるべき裁判所が、司法の責務を放棄したものと言わざるを得ない。

7. 原告らは、この不当判決に対して強く抗議し、国民・県民の皆様に広く訴えるとともに、直ちに控訴して引き続き闘うことを宣言する。
 最後に、原告団弁護団は、県民・国民とともに全民間戦争犠牲者の救済と恒久平和の実現のために闘い続けることを表明する。
                                201 8年1月23日
               「南洋戦・フィリピン戦」被害・国家賠償訴訟弁護団
                           団長 弁護士 瑞慶山茂
               「南洋戦・フィリピン戦」被害・国家賠償訴訟原告団
                           団長 柳田虎一郎