知事の埋め立て承認撤回は「朝日」が言うように「最後の手段」なのだろうか

 「朝日新聞」は「時時刻刻」で「辺野古移設 政権躍起」という記事を掲載した(6月8日付)。「政府は8月中旬にも米軍普天間飛行場沖縄県宜野湾市)の移設先となる名護市辺野古の海域への土砂投入を始める。埋め立て工事は、原状回復が難しい段階に突入。移設の既成事実化によって秋の知事選での争点化を避けるのが狙いだ」と解説する。
 辺野古の土砂投入によって、工事は止まらないという諦め感を沖縄県民に与え、そうであれば、知事選では辺野古新吉問題よりも経済を考えて投票をという空気を大きな流れにしようという官邸サイドの思惑をそのまま伝えた記事といえる。この政府筋の考え方、戦略を知ることは、それなりに意味がある。

   しかし、それを受けた記事の展開は、見識が問われる。
 記事は、埋め立て承認撤回へ向けて準備を進めている翁長知事を支えたいとして始まった県民投票条例直接請求署名運動にたいして、<県民投票に法的拘束力はなく、反対多数の結果が出たとしても、政府の強硬姿勢に対する打開策となるかは不透明だ>と、この運動の意義に疑問を投げつける。簡単には見過ごせない記述である。
 さらに、知事が「最後の手段」としての埋め立て承認の撤回をしても、国が訴えるであろう撤回取り消し訴訟で政府の主張が認められれば、「抵抗手段は実質的にはほとんどなくなる」と結論的なことを論じていることも問題である。辺野古の工事はどんなに県民が運動しようが止められないし、知事が撤回しても、国はそれにたいする対抗手段として、司法を抱き込んで国の主張にそった判決を引き出す。その結果、県は、「万策尽きた」状態になるという一面的な見方を示している。


 ここで一面的な見方だとした論拠を示しておく必要があろう。まず、一つは、沖縄県が行政手続きを厳正に行うことで、結果として、「基地建設の壁」になっているという視点の欠落という問題がある。
 詳論するまでもなく、サンゴの移植問題がその端的な事例である。沖縄防衛局は、昨年秋からサンゴの移植許可を県に求めていたが、いまだ1件の許可さえ得ることができない。その根本的な原因は、サンゴの保護対策が不十分であることにある。高温期の移植は適切でないとの見解をとってきた防衛局が、高温期に入った今、遮光ネットを張って水温の上昇を抑えるといいだした。遮光ネットが有効であれば、もっと前からそういう主張をしていたである。知事選前に土砂投入を進めるために持ち出してきた方便としか思われない。
 県が審査に要する期間が標準的には数週間で終わるとされていても、適切な対策が取られていなければ、県から事業者への問い合わせという形で、再検討が求められる。そのため数カ月かかることもありうるのである。サンゴ移植の場合、数千件の許可が必要であり、先に工事ありき、の沖縄防衛局は、環境保全を優先しないため、絶えず、無理な問題が生じる。そのため、沖縄県が、申請ごとに移植対象のサンゴの状態、移植先の状況、移植方法が適切か、移植後のモニター監視期間などについて審査していることは、巨大な壁となってしまう。
 もう一つは、辺野古の工事予定地で新たな問題となっている活断層や超軟弱地盤の存在である。
 これらの点から、<政府が土砂投入を強行し、裁判で国の主張に近い沖縄県敗訴の判決を引き出したとしても、翁長県政が示してきた厚生・厳正な行政審査を貫く限り、国は、思い通りに工事を進めることは困難であるという現実に直面せざるをえない>という見方を記事では提示することが必要だったはずである。
 より根本的なことをいえば、住民の理解なしに基地は存続し得るのか、という点である。

 一時的に権力で民衆をねじ伏せることができても、民衆はいつの日にか、それをひっくり返す力を内在的に持っている。昨日、嘉手納基地所属の米軍機F15が墜落した。防衛省は、空軍と海兵隊は別だなどと言って、知事選への怒りのマグマにならないように予防線を張ろうとしている。前回、知事選挙は、仲井真前知事の埋め立て承認で怒りが爆発する選挙であった。その後の沖縄県内の選挙でもうるま市の女性が米軍属に殺された事件の直後の県議選や参院選では基地問題が大きな争点となった。こうしたことを見るにつけ、「朝日」の「時時刻刻」は、厳しい批判を受けてもしかたがないであろう。