辺野古の埋立の是非問う県民投票 県民の一致点築ける可能性示した座談会

 琉球新報6月11日付で、県民投票の会副代表の新垣勉弁護士、元家庭裁判所裁判官の仲宗根勇氏、琉球大学の江上能義名誉教授の3氏による座談会を掲載した。辺野古の埋立の是非を問う県民投票を巡り、県民の間で賛否が分かれていたのは事実であるが、この違いを乗り越え一致点を見出そうとさまざまなところで努力が重ねられてきたのも事実だ。この座談会は、県民の一致点が築ける可能性を示しているという点で注目に値すると考えられる。

 新垣氏は、会の冒頭、次のように発言した。
 「政府が国策の中心に据える辺野古埋め立て工事に県民が明確な意思を表明することは、歴史的にも社会的にも大きな意義がある。…民意の表明によって、民主主義社会の中で国策に対抗する大きな政治的理由を築くことができる」
 県民投票の意義について、反対や疑問を呈する側からは▽裁判所が沖縄の民意を尊重するとは考えにくい▽翁長知事は、県民投票が行われればそれを最大限尊重するから、県民投票を今の時期に行えば知事の撤回判断に縛りをかけることになり、撤回の時期が遅れる―などの反対や懸念が出されていた。これらを説得するうえで新垣氏は、民意を示す意義についてもっと鮮明にする必要があると考えられたのであろう。これまで基地建設という国策に県民・市民が反対の意思を示したことはなかったから、今回の県民投票が成功すれば歴史的・社会的に大きな意義を持つと強調されている。確かに山口県岩国市では、神奈川県厚木基地の艦載機受け入れのために基地の拡張工事を国が計画したことにたいし、住民投票でその是非を問おうとしたが成功しなかった。神奈川県横須賀市の原潜母港化の是非を問うための条例制定運動も実現しなかった。国策―この言葉自体に嫌悪感を覚えるが、この国策に県民・市民が立ち向かうことは容易ではない。それだけに実現し、成功すれば極めて大きな政治的力となるのである。安倍政権は、当然、「一顧だにしない」態度をとるだろうが、沖縄県側は、政府に対して「民主主義社会の中で国策に対抗する大きな政治的理由を築く」というカードを手にすることになるのである。
 さらに新垣氏は、国に対抗するためには、「当面の戦略としては翁長知事が持っている権限の行使を通じて道を切り開く。その中核を担うのが撤回だ。撤回だけで終わらないので必ず裁判になる。裁判で勝ち抜く条件を作り上げるのに効果的なのが県民投票だ。長期的な戦略はやはり民意になる。・・・いろいろな反対の声を、県民全体として『埋め立てノー』の一点に集約するのが県民投票の持つ意味だ」と説いた。

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 これにたいし、仲宗根氏は、「県民投票はさらに撤回を引き延ばす口実になるのではないか」と批判する。
 新垣氏は、知事の撤回は知事が判断する事項であり、県民投票は県民が中心になって条例制定を求める運動で別物だとし、「県は今、行政法の専門家と弁護団とで法律的な詰めをしている。国策にたいして撤回するのは前例がなく、一から理論的に組み立てて裁判闘争に備えなければならない。どこまで撤回の法的な条件を詰められるのかの実務的な作業に内部で時間をかけている」と県の準備段階を説明した。

 仲宗根氏は、「土砂がじゃんじゃん入ってくる状態で工事を何カ月も進めてしまうと、県民投票で出た民意に基づいて撤回しましたでは通らない」「県民投票が持つ意義は否定しないが時、場所、状況のTPOを考えると、今の状況下でやる必要はない」などと批判した。
 新垣氏は、この座談会では、撤回のタイミングと裁判闘争の進行、とりわけ判決がいつになるのか。県民投票条例の実施時期は、県民投票の会の案では知事の判断にゆだねられているが、知事はいつ県民投票を行うかということを想定したスケジュールを示さなかった。とはいえ、新垣氏は他の機会に、知事選と同日実施(11月11日の想定とみられる)を想定していると述べている。
 仲宗根氏は、「撤回をした後で、民意をはっきりさせたいということであれば、いささかも反対はしない」とも述べた。これまで仲宗根氏は、「翁長知事は埋め立て承認の撤回を先延ばしにしているが、公約違反だ」と激しく非難し、また、県民投票についても撤回のじゃまになると主張してきた。今回の発言では、「時」という条件を乗り越えれば反対はしないと表明された。私はここに県民投票についての議論と運動が一つにまとまっていく可能性が示されていると思う。

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 翁長知事は、撤回の時期について「任期をまたいでやるということはなく、今任期中に必ず撤回は行う」と繰り返し発言している。謝花副知事も、「後戻りできないような事態になれば、知事は躊躇なく撤回を行うと受け止めている」と発言している。政府は、土砂投入の時期について、以前は、6月中にもといい、それが7月になり、最近は、8月中旬にはというように変わってきている。8月中旬の埋立強行であれば、公約を絶対に守るとする翁長知事は、9月ないし10月に撤回をすることになる(裁判闘争の準備に時間がかかるため、日程に幅があるが)。ただ、知事選との同時は、県民投票実施の周知期間が短いという難点がある。また、投票率の確保ということであれば、翁長氏が知事選を自分の有利にするための政治利用だとする批判も出されるであろう。
9月ないし10月に撤回であれば、国が裁判を起こすことが想定されるが、判決は早くて3月ころとなるとみられる。知事選後の県民投票であっても、裁判所に圧力をかける県民投票ということになる。