菅内閣はなぜ6人を拒否したのか 学術会議推薦

 

 菅義偉首相は1日、政府から独立して政策提言をする「日本学術会議」の新会員について、会議が推薦した候補者105人のうち6人を除外して任命した。この件で、任命を拒否された小澤隆一氏、岡田正則氏、松宮孝明氏が日本学術会議会長に要請書を提出した。

 その要請書(全文)がしんぶん赤旗2日付に掲載されている。

<<日本学術会議会長殿

要請書 日本学術会議会員への任命拒否の撤回に向け総力であたることを求めます

 私たちは、2020年8月、第25―26期日本学術会議会員候補者として推薦されました。小澤は2008年10月から12年にわたり、岡田と松宮は2011年10月から9年にわたり、連携会員として日本学術会議の活動に誠心誠意参画してきました。私たちはこうした参画とこの度の推薦を栄誉なことと思い、会員候補者としての諸手続きを済ませ、事務局からの総会、部会等への出欠の問い合わせにも応じて、10月1日からの総会等への参加を準備していました。ところが、9月29日、突如として、内閣総理大臣による任命がされない旨伝えられました。日本学術会議としても前代未聞の事態と聞きます。

私たちの日本学術会議会員への任命を拒むにあたり、内閣総理大臣からは理由など一切の説明がありません。これは、日本学術会議の推薦と同会議の活動への私たちの尽力をまったく顧慮しないものとして、到底承服できないものです。もしも私たちの研究活動についての評価に基づく任命拒否であれば、日本国憲法第23条が保障する学問の自由の重大な侵害として断固抗議の意を表します。

また、今回の事態は、私たちだけの問題ではなく、日本学術会議の存立をも脅かすものです。日本学術会議は、「わが国の科学者の内外に対する代表機関」(日本学術会議法第2条)として、「科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること」などの職務を「独立して」行い(同法第3条)、「科学の振興及び技術の発達に関する方策、科学に関する研究成果の活用に関する方策、科学を行政に反映させる方策」などについて、「政府に勧告することができる」(同法第5条)とされています。こうした日本学術会議の地位、職務上の独立性、権限は、会員の任命が内閣総理大臣の意のままになれば、すべて否定されてしまい、学問の自由は、この点においても深刻に侵されます。

貴職におかれては、このような重大問題をはらむ私たちに対する日本学術会議会員への任命拒否の撤回に向けて、会議の総力を挙げてあたることを求めます。>>

 

 朝日新聞は、任命されなかった一人、東京大学加藤陽子教授(日本近代史)の話を次のように報道した。

 <<加藤教授は「学術会議内での推薦は早くから準備され、内閣府から首相官邸にも8月末には名簿があがっていたはずだ。それを、新組織が発足する直前に抜き打ち的に連絡してくるというのは、多くの分科会を抱え、国際会議も主催すべき学術会議会員の任務の円滑な遂行を妨害することにほかならない。欠員が生じた部会の運営が甚だしく阻害されている」と批判。「学問の自由という観点のみならず、学術会議の担うべき任務について、首相官邸が軽んじた点も問題視している」とコメントした。>>

 

 9月30日付で学術会議会長を退任した山極(やまぎわ)寿一(じゅいち)・京都大学前総長は1日にあった学術会議の総会で「人事は科学者が業績を精査して推薦するべきで、存立に大きな影響を与える。大変重い課題を残すことになって申し訳ない」と述べた。

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 この問題について政府はどう説明しているか。加藤官房長官は1日の会見で、「個々の候補者の選考過程、理由については人事に関することですから、コメントは差し控える」とのべた。さらに「任命権者である政府側がその責任をもって(任命を)行うことは当然」「内閣総理大臣の所轄であり、会員の人事等を通じて一定の監督権を行使するということは法律上可能」だと述べ、「直ちに学問の自由の侵害ということにはつながらない」と強弁した。

 日本共産党志位和夫委員長は、官房長官のこの発言について、「日本学術会議法には監督権なんてどこにも書いていない。監督権を行使するなど、日本学術会議のまさに否定にほかならず、その存立を脅かし、学問の自由を否定するとんでもない居直りだ」と批判。「まさにファッショ的なやり方であり、菅政権が官邸の強権によって科学者、日本学術会議まで意のままにしようというところに乗りだしてきたのを許すわけにいきません。大問題として追及していく」と表明した。

 立憲民主党枝野幸男代表も「学術会議の話はひどすぎる。違憲、違法だということで(野党は)一致した」と発言。安住国対委員長も「思想的なこととか、それから政府が提出した特定の法案に対して反対したことを理由にですね、学術会議のメンバーを外すとなれば、看過できない部分があるんではないかと思ってます」と述べている。

 安保法制に反対したとか政府の方針や考え方と異なる考えを持っているからというようなことで学術会議から排除するなどというようなことがあっては、これが規範となって今後、さまざまなところで同様のことが起きるのではないか、そう思わせるところがある。