菅内閣はなぜ6人を拒否したのか 学術会議推薦

 

 菅義偉首相は1日、政府から独立して政策提言をする「日本学術会議」の新会員について、会議が推薦した候補者105人のうち6人を除外して任命した。この件で、任命を拒否された小澤隆一氏、岡田正則氏、松宮孝明氏が日本学術会議会長に要請書を提出した。

 その要請書(全文)がしんぶん赤旗2日付に掲載されている。

<<日本学術会議会長殿

要請書 日本学術会議会員への任命拒否の撤回に向け総力であたることを求めます

 私たちは、2020年8月、第25―26期日本学術会議会員候補者として推薦されました。小澤は2008年10月から12年にわたり、岡田と松宮は2011年10月から9年にわたり、連携会員として日本学術会議の活動に誠心誠意参画してきました。私たちはこうした参画とこの度の推薦を栄誉なことと思い、会員候補者としての諸手続きを済ませ、事務局からの総会、部会等への出欠の問い合わせにも応じて、10月1日からの総会等への参加を準備していました。ところが、9月29日、突如として、内閣総理大臣による任命がされない旨伝えられました。日本学術会議としても前代未聞の事態と聞きます。

私たちの日本学術会議会員への任命を拒むにあたり、内閣総理大臣からは理由など一切の説明がありません。これは、日本学術会議の推薦と同会議の活動への私たちの尽力をまったく顧慮しないものとして、到底承服できないものです。もしも私たちの研究活動についての評価に基づく任命拒否であれば、日本国憲法第23条が保障する学問の自由の重大な侵害として断固抗議の意を表します。

また、今回の事態は、私たちだけの問題ではなく、日本学術会議の存立をも脅かすものです。日本学術会議は、「わが国の科学者の内外に対する代表機関」(日本学術会議法第2条)として、「科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること」などの職務を「独立して」行い(同法第3条)、「科学の振興及び技術の発達に関する方策、科学に関する研究成果の活用に関する方策、科学を行政に反映させる方策」などについて、「政府に勧告することができる」(同法第5条)とされています。こうした日本学術会議の地位、職務上の独立性、権限は、会員の任命が内閣総理大臣の意のままになれば、すべて否定されてしまい、学問の自由は、この点においても深刻に侵されます。

貴職におかれては、このような重大問題をはらむ私たちに対する日本学術会議会員への任命拒否の撤回に向けて、会議の総力を挙げてあたることを求めます。>>

 

 朝日新聞は、任命されなかった一人、東京大学加藤陽子教授(日本近代史)の話を次のように報道した。

 <<加藤教授は「学術会議内での推薦は早くから準備され、内閣府から首相官邸にも8月末には名簿があがっていたはずだ。それを、新組織が発足する直前に抜き打ち的に連絡してくるというのは、多くの分科会を抱え、国際会議も主催すべき学術会議会員の任務の円滑な遂行を妨害することにほかならない。欠員が生じた部会の運営が甚だしく阻害されている」と批判。「学問の自由という観点のみならず、学術会議の担うべき任務について、首相官邸が軽んじた点も問題視している」とコメントした。>>

 

 9月30日付で学術会議会長を退任した山極(やまぎわ)寿一(じゅいち)・京都大学前総長は1日にあった学術会議の総会で「人事は科学者が業績を精査して推薦するべきで、存立に大きな影響を与える。大変重い課題を残すことになって申し訳ない」と述べた。

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 この問題について政府はどう説明しているか。加藤官房長官は1日の会見で、「個々の候補者の選考過程、理由については人事に関することですから、コメントは差し控える」とのべた。さらに「任命権者である政府側がその責任をもって(任命を)行うことは当然」「内閣総理大臣の所轄であり、会員の人事等を通じて一定の監督権を行使するということは法律上可能」だと述べ、「直ちに学問の自由の侵害ということにはつながらない」と強弁した。

 日本共産党志位和夫委員長は、官房長官のこの発言について、「日本学術会議法には監督権なんてどこにも書いていない。監督権を行使するなど、日本学術会議のまさに否定にほかならず、その存立を脅かし、学問の自由を否定するとんでもない居直りだ」と批判。「まさにファッショ的なやり方であり、菅政権が官邸の強権によって科学者、日本学術会議まで意のままにしようというところに乗りだしてきたのを許すわけにいきません。大問題として追及していく」と表明した。

 立憲民主党枝野幸男代表も「学術会議の話はひどすぎる。違憲、違法だということで(野党は)一致した」と発言。安住国対委員長も「思想的なこととか、それから政府が提出した特定の法案に対して反対したことを理由にですね、学術会議のメンバーを外すとなれば、看過できない部分があるんではないかと思ってます」と述べている。

 安保法制に反対したとか政府の方針や考え方と異なる考えを持っているからというようなことで学術会議から排除するなどというようなことがあっては、これが規範となって今後、さまざまなところで同様のことが起きるのではないか、そう思わせるところがある。

南洋戦・フィリピン戦国家賠償訴訟の進行協議が行われた

 6月19日、南洋戦・フィリピン戦国家賠償訴訟の進行協議が行われた。この訴訟は、今年1月、那覇地裁で原告が敗訴。この結果を不服として40人が福岡地裁那覇支部控訴していた(2月)。まだ、弁論は始まっておらず、今日は、裁判所と双方の弁護士が裁判の進め方について協議する「進行協議」の日だった。通例、進行協議では、原告は入れないが、今回は、14人の原告の傍聴を裁判所が認めた。とはいえ、裁判所が原告の被害にたいする深い理解を持ったというわけではなく、一定のポーズと見るべきだろう。瑞慶山原告弁護団長は、高裁でもベストを尽くすが、むしろ、最高裁の方が勝てる可能性があるという。
 この日、法廷が開かれるわけではないのに、沖縄戦訴訟の原告を含めて34人が裁判所に集まった。
 9月3日にもう1度進行協議あり、裁判の基本的方向を確認する。初回の口頭弁論は、10月3日に開かれる。その後の裁判期日の予定も決まり、10月17日、11月1日、12月18日が設定された。瑞慶山原告弁護団長は、原告は高齢であり、早期の判決を求めたいとしている。
 今回の進行協議で、裁判所に何を知りたいかを確認したところ、日本軍による本来の軍事行動からの逸脱行為に関心を持っていると話していたという。
 日本軍による民間人の壕からの追い出しなどがこれまでにも証言されているが、追い出された直後に射殺されたとか、艦砲射撃でなくなったとか、そこまで明確にならなければ、裁判所は「壕から追い出されて亡くなった」とは認めないという。1審で被害について一定程度認められているが、そこをもっと深く解明していくことが、裁判の勝負どころの一つになるという。
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 今年、7月14日~16日の3日間、戦場体験放映保存の会と沖縄・民間戦争被害者の会が「私は沖縄・南洋戦で何を失ったか」をテーマに体験談パネル展を沖縄県立博物館・県民ギャラリー2・3で開催する。
 パネル展の一画では「戦争被害の元子供たちを囲むゆんたく」が行われる。パネル展が開催される期間、1時間程度のゆんたくを1日3回(午前10時30分、午後1時、午後2時半)、計9回行う。沖縄戦・南洋戦の原告には、出席できる日を聞くはがきが送られていた。被害者が当時の状況や苦難を語り合い、パネル展を見に来た人たちとも話し合う場にするという。
 関係者の一人は、「高校生が来てくれることを期待している」といい、開催の趣旨に賛同する校長もいると話していた。
 7月14日には、「地上戦の民間戦災者はなぜ放置されてきたか」をテーマに、沖縄戦・南洋戦被害国家賠償訴訟原告弁護団団長の瑞慶山茂弁護士による講演も行われる(午後4時15分、沖縄県立博物館・美術館講座室)。

辺野古の埋立の是非問う県民投票 県民の一致点築ける可能性示した座談会

 琉球新報6月11日付で、県民投票の会副代表の新垣勉弁護士、元家庭裁判所裁判官の仲宗根勇氏、琉球大学の江上能義名誉教授の3氏による座談会を掲載した。辺野古の埋立の是非を問う県民投票を巡り、県民の間で賛否が分かれていたのは事実であるが、この違いを乗り越え一致点を見出そうとさまざまなところで努力が重ねられてきたのも事実だ。この座談会は、県民の一致点が築ける可能性を示しているという点で注目に値すると考えられる。

 新垣氏は、会の冒頭、次のように発言した。
 「政府が国策の中心に据える辺野古埋め立て工事に県民が明確な意思を表明することは、歴史的にも社会的にも大きな意義がある。…民意の表明によって、民主主義社会の中で国策に対抗する大きな政治的理由を築くことができる」
 県民投票の意義について、反対や疑問を呈する側からは▽裁判所が沖縄の民意を尊重するとは考えにくい▽翁長知事は、県民投票が行われればそれを最大限尊重するから、県民投票を今の時期に行えば知事の撤回判断に縛りをかけることになり、撤回の時期が遅れる―などの反対や懸念が出されていた。これらを説得するうえで新垣氏は、民意を示す意義についてもっと鮮明にする必要があると考えられたのであろう。これまで基地建設という国策に県民・市民が反対の意思を示したことはなかったから、今回の県民投票が成功すれば歴史的・社会的に大きな意義を持つと強調されている。確かに山口県岩国市では、神奈川県厚木基地の艦載機受け入れのために基地の拡張工事を国が計画したことにたいし、住民投票でその是非を問おうとしたが成功しなかった。神奈川県横須賀市の原潜母港化の是非を問うための条例制定運動も実現しなかった。国策―この言葉自体に嫌悪感を覚えるが、この国策に県民・市民が立ち向かうことは容易ではない。それだけに実現し、成功すれば極めて大きな政治的力となるのである。安倍政権は、当然、「一顧だにしない」態度をとるだろうが、沖縄県側は、政府に対して「民主主義社会の中で国策に対抗する大きな政治的理由を築く」というカードを手にすることになるのである。
 さらに新垣氏は、国に対抗するためには、「当面の戦略としては翁長知事が持っている権限の行使を通じて道を切り開く。その中核を担うのが撤回だ。撤回だけで終わらないので必ず裁判になる。裁判で勝ち抜く条件を作り上げるのに効果的なのが県民投票だ。長期的な戦略はやはり民意になる。・・・いろいろな反対の声を、県民全体として『埋め立てノー』の一点に集約するのが県民投票の持つ意味だ」と説いた。

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 これにたいし、仲宗根氏は、「県民投票はさらに撤回を引き延ばす口実になるのではないか」と批判する。
 新垣氏は、知事の撤回は知事が判断する事項であり、県民投票は県民が中心になって条例制定を求める運動で別物だとし、「県は今、行政法の専門家と弁護団とで法律的な詰めをしている。国策にたいして撤回するのは前例がなく、一から理論的に組み立てて裁判闘争に備えなければならない。どこまで撤回の法的な条件を詰められるのかの実務的な作業に内部で時間をかけている」と県の準備段階を説明した。

 仲宗根氏は、「土砂がじゃんじゃん入ってくる状態で工事を何カ月も進めてしまうと、県民投票で出た民意に基づいて撤回しましたでは通らない」「県民投票が持つ意義は否定しないが時、場所、状況のTPOを考えると、今の状況下でやる必要はない」などと批判した。
 新垣氏は、この座談会では、撤回のタイミングと裁判闘争の進行、とりわけ判決がいつになるのか。県民投票条例の実施時期は、県民投票の会の案では知事の判断にゆだねられているが、知事はいつ県民投票を行うかということを想定したスケジュールを示さなかった。とはいえ、新垣氏は他の機会に、知事選と同日実施(11月11日の想定とみられる)を想定していると述べている。
 仲宗根氏は、「撤回をした後で、民意をはっきりさせたいということであれば、いささかも反対はしない」とも述べた。これまで仲宗根氏は、「翁長知事は埋め立て承認の撤回を先延ばしにしているが、公約違反だ」と激しく非難し、また、県民投票についても撤回のじゃまになると主張してきた。今回の発言では、「時」という条件を乗り越えれば反対はしないと表明された。私はここに県民投票についての議論と運動が一つにまとまっていく可能性が示されていると思う。

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 翁長知事は、撤回の時期について「任期をまたいでやるということはなく、今任期中に必ず撤回は行う」と繰り返し発言している。謝花副知事も、「後戻りできないような事態になれば、知事は躊躇なく撤回を行うと受け止めている」と発言している。政府は、土砂投入の時期について、以前は、6月中にもといい、それが7月になり、最近は、8月中旬にはというように変わってきている。8月中旬の埋立強行であれば、公約を絶対に守るとする翁長知事は、9月ないし10月に撤回をすることになる(裁判闘争の準備に時間がかかるため、日程に幅があるが)。ただ、知事選との同時は、県民投票実施の周知期間が短いという難点がある。また、投票率の確保ということであれば、翁長氏が知事選を自分の有利にするための政治利用だとする批判も出されるであろう。
9月ないし10月に撤回であれば、国が裁判を起こすことが想定されるが、判決は早くて3月ころとなるとみられる。知事選後の県民投票であっても、裁判所に圧力をかける県民投票ということになる。

知事の埋め立て承認撤回は「朝日」が言うように「最後の手段」なのだろうか

 「朝日新聞」は「時時刻刻」で「辺野古移設 政権躍起」という記事を掲載した(6月8日付)。「政府は8月中旬にも米軍普天間飛行場沖縄県宜野湾市)の移設先となる名護市辺野古の海域への土砂投入を始める。埋め立て工事は、原状回復が難しい段階に突入。移設の既成事実化によって秋の知事選での争点化を避けるのが狙いだ」と解説する。
 辺野古の土砂投入によって、工事は止まらないという諦め感を沖縄県民に与え、そうであれば、知事選では辺野古新吉問題よりも経済を考えて投票をという空気を大きな流れにしようという官邸サイドの思惑をそのまま伝えた記事といえる。この政府筋の考え方、戦略を知ることは、それなりに意味がある。

   しかし、それを受けた記事の展開は、見識が問われる。
 記事は、埋め立て承認撤回へ向けて準備を進めている翁長知事を支えたいとして始まった県民投票条例直接請求署名運動にたいして、<県民投票に法的拘束力はなく、反対多数の結果が出たとしても、政府の強硬姿勢に対する打開策となるかは不透明だ>と、この運動の意義に疑問を投げつける。簡単には見過ごせない記述である。
 さらに、知事が「最後の手段」としての埋め立て承認の撤回をしても、国が訴えるであろう撤回取り消し訴訟で政府の主張が認められれば、「抵抗手段は実質的にはほとんどなくなる」と結論的なことを論じていることも問題である。辺野古の工事はどんなに県民が運動しようが止められないし、知事が撤回しても、国はそれにたいする対抗手段として、司法を抱き込んで国の主張にそった判決を引き出す。その結果、県は、「万策尽きた」状態になるという一面的な見方を示している。


 ここで一面的な見方だとした論拠を示しておく必要があろう。まず、一つは、沖縄県が行政手続きを厳正に行うことで、結果として、「基地建設の壁」になっているという視点の欠落という問題がある。
 詳論するまでもなく、サンゴの移植問題がその端的な事例である。沖縄防衛局は、昨年秋からサンゴの移植許可を県に求めていたが、いまだ1件の許可さえ得ることができない。その根本的な原因は、サンゴの保護対策が不十分であることにある。高温期の移植は適切でないとの見解をとってきた防衛局が、高温期に入った今、遮光ネットを張って水温の上昇を抑えるといいだした。遮光ネットが有効であれば、もっと前からそういう主張をしていたである。知事選前に土砂投入を進めるために持ち出してきた方便としか思われない。
 県が審査に要する期間が標準的には数週間で終わるとされていても、適切な対策が取られていなければ、県から事業者への問い合わせという形で、再検討が求められる。そのため数カ月かかることもありうるのである。サンゴ移植の場合、数千件の許可が必要であり、先に工事ありき、の沖縄防衛局は、環境保全を優先しないため、絶えず、無理な問題が生じる。そのため、沖縄県が、申請ごとに移植対象のサンゴの状態、移植先の状況、移植方法が適切か、移植後のモニター監視期間などについて審査していることは、巨大な壁となってしまう。
 もう一つは、辺野古の工事予定地で新たな問題となっている活断層や超軟弱地盤の存在である。
 これらの点から、<政府が土砂投入を強行し、裁判で国の主張に近い沖縄県敗訴の判決を引き出したとしても、翁長県政が示してきた厚生・厳正な行政審査を貫く限り、国は、思い通りに工事を進めることは困難であるという現実に直面せざるをえない>という見方を記事では提示することが必要だったはずである。
 より根本的なことをいえば、住民の理解なしに基地は存続し得るのか、という点である。

 一時的に権力で民衆をねじ伏せることができても、民衆はいつの日にか、それをひっくり返す力を内在的に持っている。昨日、嘉手納基地所属の米軍機F15が墜落した。防衛省は、空軍と海兵隊は別だなどと言って、知事選への怒りのマグマにならないように予防線を張ろうとしている。前回、知事選挙は、仲井真前知事の埋め立て承認で怒りが爆発する選挙であった。その後の沖縄県内の選挙でもうるま市の女性が米軍属に殺された事件の直後の県議選や参院選では基地問題が大きな争点となった。こうしたことを見るにつけ、「朝日」の「時時刻刻」は、厳しい批判を受けてもしかたがないであろう。

「南洋戦・フィリピン戦」被害・国家賠償訴訟 那覇地方裁判所判決(棄却)について

 2018年1月23日、那覇地方裁判所は「南洋戦・フィリピン戦」被害・国家賠償訴訟で、被害原告の訴えを却下する判決を出した。戦後70年余りたってなお、一般民間人の戦争被害が救済されないことが許されてよいはずがない。弁護団と原告は、判決後、記者会見を行い、「ドイツ、イタリアでは戦後、法律を作り、一般民間人を救済している。なぜ、日本でできないのか。国家無答責を理由に請求を退けたのは、司法の責務放棄だ」などと訴えた。以下、その時に出された原告団弁護団声明を紹介する。(20180124machikiso's blogから)


             声明
―「南洋戦・フィリピン戦」被害・国家賠償訴訟 那覇地方裁判所判決(棄却)についてー
 本日(2018年1月23日)、那覇地方裁判所民事第1部合議A係(劔持淳子裁判長)は、先の南洋戦・フィリピン戦で被災した一般民間戦争被害者45名が原告となって、戦争損害について国に対して謝罪と1100万円の慰謝料を請求した「南洋戦・フィリピン戦」被害・国家賠償訴訟につき、原告らの各請求を棄却した。不当判決である。

1.原告らは、請求の根拠として、日本軍の残虐非道行為と、米軍との玉砕戦による戦闘行為とその結果生じた生命侵害・身体侵害・精神侵害の被害事実を主張・立証し、この事実を基礎として、①日本軍の違法な公権力の行使に対する民法不法行為責任、②公法上の危険責任、③国会が被害の救済法を制定せず長期間放置してきた立法不作為責任、憲法14条で定める法の下の平等原則違反等を主張した。特に精神的被害事実については、28名の原告が「南洋戦・フィリピン戦」に起因する戦争PTSD (外傷性精神障害)と診断された事実を、専門医の鑑定書と診断書の提出により立証した。
 これに対し、判決は、原告ら45名が戦争被害を受けた事実、28名の原告が戦争PTSDと診断された事実を認定し、原告らの心労や労苦が、その内容は様々であるにせよ、おしなべて筆舌に尽くし難いものであったことは明らかであり、こうした苦痛や労苦は、軍人軍属及び戦闘参加者を含む準軍属並びにその遺族らのものと本質的に違いはないということができる。したがって、原告らが、被告においては、原告らのような一般民間戦争被害者に対しても、軍人軍属等と同様に、立法により救済や援護をすべき義務があると主張することも、心情的には理解できるところであるし、政策的観点からは、そのような見解も十分にあり得るところであるとした。

2. しかし、①民法不法行為責任については、明治憲法下の国家の権力的行為について国は責任を負わないとするいわゆる国家無答責の法理により否定し、②公法上の危険責任については、法的効果を導き出すほどの具体的根拠に乏しい抽象的概念であるとして否定し、③立法不作為責任については、立法府の裁量判断に委ねられているとして否定した。④軍人軍属との差別や戦闘参加者と認定された一般民間戦争被害者との差別が憲法14条の法の下の平等原則に違反するとの主張については、不合理な差別とはいえないとして否定した。
 これら請求棄却の理由は、被害が甚大なものであることを認めながら救済を否定する不合理なものであって、法律の適用を誤り、日本国憲法基本的人権規定に反する不当判決である。

3. また、原告らは、「南洋戦・フィリピン戦」におけるアメリカ軍の軍事行動の国際法違反行為として、次の2点を主張・立証した。
( 1 )アメリカ潜水艦・航空機による民間船舶に対する無警告・無制限攻撃は、パリ講和会議の戦争法規慣例及びワシントン条約による砲撃等の禁止に違反する
(2 ) アメリカ軍の住民居住地等に対する無差別じゅうたん艦砲射撃は、戦時海軍砲撃条約等に違反する。
 これらの主張について、判決は何ら事実認定及び法律解釈をすることなく、判断を回避した。
 原告らの主張に対して応答をしない裁判所の態度は極めて不誠実・無責任であると言わざるを得ない。

4. 判決は、原告らの被害事実として、艦砲射撃や銃撃、空襲、戦争下での栄養失調等による親族の死亡や、本人の負傷、戦争孤児となったこと、戦争PTSDとの診断を受けたことなどを認定している。判決が認定した戦争被害の実態は、いずれも極めて深刻かつ重大なものである。その深刻な被害がいまだ救済されることなく放置されていることは、決して容認できるものではない。
 先の南洋戦・フィリピン戦は日本の敗戦が決定的になっていたにもかかわらず、国体(天皇制)護持と日本本土防衛のために南洋諸島・フィリピン群島に住む国民の命を犠牲にした捨て石作戦(玉砕戦)であったことは歴史的にみて疑う余地がない。その強いられた玉砕戦争によって、南洋諸島・フィリピン群島に住んでいた日本国民10 万人のうち、沖縄県出身者8万人中2 万5000人以上が命を奪われ、戦争孤児も多く発生し、身体的障害者及び戦時・戦場体験に起因する心的外傷後ストレス障害(PTSD)など精神的後遺障害者が現在も発生している。今も原告らとその家族は戦争の惨禍に呻吟し続けている。「南洋戦・フィリピン戦」は、国の謝罪と被害の全面救済がない限り終わるものではない。

5. 明治憲法下でも保障されていた生命・身体・精神に対する戦争被害は人類普遍の原理である基本的人権の根本的破壊である。先の大戦は日本が開戦し、遂行してきたことは自明のことであり、日本国はその戦争によって被った国民の被害について謝罪し損害賠償する法的責任を負うことは、原告らがこの訴訟の中で法的主張を行い、証拠でもって立証してきたとおりである。

6. 被告国は、先の大戦の被害について恩給法・援護法を制定して、軍人軍属には総合計60兆円の補償を行ってきたが、一般民間戦争被害に対しては全く補償を行ってこなかった。南洋戦・フィリピン戦の一般民間戦争被害については、その一部の一般民間人については戦闘参加者として戦後になって認定し補償を行ってきたが、約l万7000人の死者と多数の後遺障害者に対しては謝罪も補償も行うことなく放置している。ここに軍人軍属との差別に加え、一般民間人の中にも差別が生じている(二重差別)。そこで、この放置された一般民間戦争被害者が、人生最後の願いとして国の謝罪と補償を求めたのがこの訴訟である。
 にもかかわらず、那覇地方裁判所は原告らの切実な請求を棄却したのである。基本的人権救済の最後の砦であるべき裁判所が、司法の責務を放棄したものと言わざるを得ない。

7. 原告らは、この不当判決に対して強く抗議し、国民・県民の皆様に広く訴えるとともに、直ちに控訴して引き続き闘うことを宣言する。
 最後に、原告団弁護団は、県民・国民とともに全民間戦争犠牲者の救済と恒久平和の実現のために闘い続けることを表明する。
                                201 8年1月23日
               「南洋戦・フィリピン戦」被害・国家賠償訴訟弁護団
                           団長 弁護士 瑞慶山茂
               「南洋戦・フィリピン戦」被害・国家賠償訴訟原告団
                           団長 柳田虎一郎

サンゴ移植許可申請出し直し 追い詰められているのは沖縄防衛局

20180313にmachikiso's bulogに書いた論考のコピーです。

 

 サンゴ移植許可申請出し直し 追い詰められているのは沖縄防衛局
                       

 沖縄防衛局が名護市辺野古で進めている新基地建設の埋め立て海域で見つかったサンゴの移植は、採捕が許可された「オキナワハマサンゴ」については、3月1日に期限が切れ、移植がおこなわれないまま、許可の失効となり、他の申請については不許可となった。一部報道では、「政治判断だ」という評価もあったが、やや不正確に思う。結論的に言えば、失効及び不許可は、政治判断という要素はほとんど見られず、徹底した審査に基づいて導かれた判断であった。平易な言葉で言えば、沖縄防衛局の採捕許可申請は、「試験移植」としての要件を満たしておらず、申請を出し直しなさいということである。自然保護団体の抗議を受けて、許可を取り消したり、認めなかったということではない。

 ●生態的な知見なく、慎重に審査
沖縄防衛局は、環境省レッドリストに載っている「オキナワハマサンゴ」(絶滅危惧種)、「ヒメサンゴ」(準絶滅危惧種)を「試験移植」の目的で、書類上、5件の申請を行った。
昨年10月26日に申請した「オキナワハマサンゴ」は、県が目安としている45日の「標準処理期間」を大きく超える113日の審査を行い、水産資源の保護培養の趣旨から総合的に判断し許可した。その後、食害が見つかり、移植しないまま3月1日の許可期限が過ぎ、失効となった。県の担当部局は、2カ月の延長をと言ってきたが、それがだとうかどうか判断できない、それよりも申請をやり直した方がいいでしょと、押し返した。
 審査が長期になった理由について、県は、オキナワハマサンゴに関する生態的な知見が十分集積されていず、慎重に対応する必要があったと県は言っている。
環境省は、県の問い合わせに「オキナワハマサンゴが内湾的環境に生息し、波高が低い場所に生息状況から推察すれば、同サンゴの移植先については、波浪、潮流の影響を受けにくいと考える場所を選定する必要があると考えられる」としながらも、「移植先については、必ずしも内湾的環境に限られたものと示されているものではない」と回答している。
 県は、移植後初期の状態把握が必要と判断し、「移植後、当分の間、おおむね1週間ごとに経過観察をおこない、そのつど、県へ報告をおこなうこと」という条件を付けて採捕を許可した。モニターは、何カ月と切るのではなく、移植したサンゴが健全になったことが確認されるまでで、防衛局と協議しながらやっていくのだという。

●食害の発覚 防衛局は、県の主張を受け入れて環境監視等委員会を得ることにし、申請を出し直すことに
一旦、県の許可が出たものの、沖縄防衛局の観察の中で「食害」が見つかった。この新しい事態の中で県は、沖縄防衛局に環境監視等委員会の助言を得るよう求めた。沖縄防衛局は、県の指摘を受け、環境監視等委員会の助言を得ることにした。といっても最初は、何人かの委員に聞いて済まそうとしていたようだが、県は、それにダメ出しをし、あくまで環境監視等委員会を開いて助言を得るべきだと主張したという。このため3月1日までに食害対策をしめすことができないまま、期限切れを迎えた。沖縄防衛局は2カ月の延長を要請したが、県は、2カ月が妥当か判断できないとして、申請の出し直しを求め、許可失効となった。

●3月2日の4件の申請 食害対策示されず、ヒメサンゴの移植先も不適切と指摘
沖縄防衛局は、移植許可が失効した翌日の3月2日、オキナワハマサンゴ、ヒメサンゴの4件の採捕許可を申請した。県は、この申請にたいしても、オキナワハマサンゴについては食害対策が不十分だと指摘し、ヒメサンゴについては、移植先のサンゴモ類の生育状況との関係を考慮するよう提起した。
 県が防衛局に送った文書では、次のような指摘をしている。
 「今回、貴局(沖縄防衛局)職員による報告のとおり食害であるとするならば、本種(オキナワハマサンゴ)における食害の影響は、その生残や再生産にとって非常に憂慮されるべき事象である。オキナワハマサンゴの移植技術を検討するにあたっては、これまでの一般的なサンゴ類の移植にとどまらず、小型種が対象であることを前提に、食害対策に係る計画の検討が不可欠であることがこの度判明したところであるが、本件許可申請においては、その計画はなされていない」
 「本件申請において、移植先で確認されているヒメサンゴは2群体のみであり、いずれも10ミリに満たない大きさで、群体の周辺にサンゴモ類の明らかな繁茂がみられることから、やがてサンゴモ類に覆われて死滅する可能性が高いと考えられる」
 沖縄防衛局の主張だけで移植を進めれば、サンゴの生存は危うい、そのことを顕在化させる指摘である。
環境監視等委員会にもサンゴの移植に関する専門家はいないというのは事実のようだが、それでもサンゴの研究をしている学者も入っている。その専門家の助言なしにことを進めることはできない。あくまで「試験移植」であり、その態をなさなければならない。
 そしてこの県の審査のあり方から見て取れるのは、行政としての厳正審査が、沖縄防衛局にとって巨大な壁となって立ちはだかっているということができる。この壁を前にして、沖縄防衛局はたじろぎ、焦っているのではないだろうか。

●法令上の要件満たさなければ不許可もと翁長知事
 翁長雄志知事は、今後の申請に関して「法令上の要件を満たしていなければ不許可も含め厳正に対処する」としている。基地建設で移植対象となるサンゴは約7万4000件。工事前にサンゴの移植を行うとする留意事項を沖縄防衛局が遵守するのであれば、埋め立て開始がいつになるのか、見通しはたたないということにならざるを得ない。留意事項違反を承知で6月にも埋め立てを開始するのだろうか。追い詰められているのは沖縄県ではなく、政府の方であることは間違いない。

 

 ※その後、沖縄防衛局は、サンゴの移植再申請を行ったが、いまだ県の承認が得られておらず、海水温上昇でサンゴの移植時期に適さなくなってきており、秋以降にしか移植の承認はでないのではないか。にもかかわらず、工事を続けることは、サンゴを守りながら工事を進めるとしてきた防衛局のこれまでの姿勢を投げ捨てることになる。

辺野古新基地建設に伴うサンゴの移植問題

サンゴの移植問題と辺野古基地問題は、今年、2回に分けて県と防衛局の間でどのようなやり取りがあったのかに重点を置いた、資料紹介的な論考「辺野古新基地建設に伴うサンゴの移植問題」と、「サンゴ移植許可申請出し直し 追い詰められているのは沖縄防衛局」を書いた。そのうちの移植問題の方を、まず、以下に貼り付けます。


                        20180301~
(1)沖縄防衛局のサンゴ採捕問題の視点
沖縄防衛局は2017年10月26日、沖縄県に「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書に基づく環境保全措置を目的とした造礁サンゴ類の移植技術に関する試験研究」を目的に、「沖縄県漁業調整規則第33条第2項及び第40条」の適用除外の許可を受けたいとして特別採捕許可申請書を提出した。沖縄県は、これを受理し、審査をおこなってきたが、2月16日に特別採捕許可した。「標準的な審査期間は45日」とされていたが、防衛局は許可を得るのに110日を要した。
県が採捕を許可したことで、翁長知事に対し批判の声が出ている。サンゴを壊さないでほしいという思いからの批判である。新基地建設工事を止める知事権限の一つと言われていたから、失望した向きもあっただろう。
埋立承認取り消しを取り消した以上、取り消し以前の段階に戻り、沖縄防衛局が出してくる諸手続きに対応しなければならないから、防衛局が法令にのっとりだしてきた申請については、審査の上、許可しなければならない。ただし、法令や県との約束に反する内容があれば、指摘し、取り下げて出し直しを求めることや、許可後に違反があった場合、許可取り消しを行う。こういう仕組みである以上、「敵失」がなければなかなか不許可にはならない。しかし、内容に不備があれば、その指摘を乗り越えるため、相当の時間を要することになる。この点に注目すれば今回のオキナワハマサンゴの移植許可をうるのに「標準的な審査期間」の倍以上の時間を要したことは、官邸からまだ許可が出ないのかとつめまくられたであろう防衛局は毎日が針のむしろに座らされている心境だったのではないか。実際、沖縄防衛局は、許可がいつおりますかと毎日のように県に問い合わせをかけ、しまいには「県庁に伺いますよ」と圧力をかけたという。自民党県議も代表質問で「採捕申請について引き延ばし続けている」と追及する質問通告も出していた。政府と自民党は、あらゆる手を使って県に圧力をかけたから、2月16日の許可は、タイムテーブルとしてはぎりぎりのところだったろう。
とはいえ、これだけで「県は国の攻勢に抗しきれなかった」という評価をくだすことは、適切だろうか。
県が「法令に基づいて厳正に審査」し、標準日数を大幅に超える日数をかけたことに注目すべきではないか。防衛局の採捕許可申請は、第9回環境監視等委員会の検討に基づくもので、専門家の助言を得てのものであったが、県は防衛局の採捕計画について強い疑問をいくつも持ったのだろう。質問を2度も投げかけている。さらにレッドリストを所管する環境省にも紹介し、オキナワハマサンゴの知見を聞いている。オキナワハマサンゴの特徴が十分わかっておらず、移植技術も確立していないことが明らかになった。こうしたやりとりを通じてサンゴの移植を右から左に承認するのではなく、しっかりした報告を県にすることも注文したのである。
県の質問に対する防衛局の回答は、現段階では公表されていないが、沖縄県は防衛局に何度も問い合わせや内容の不備を指摘し、一定程度の縛りをかけることができたのではないか。そういう評価が成り立つのであれば、採捕許可にたいする見方を大きく変えざるをえなくなろう。許可に至る経緯をていねいに見ていきたい。

(2)工事予定海域でのサンゴ生息調査と環境監視等委員会への報告
沖縄防衛局は、環境省が策定した「海洋生物レッドリスト (2017)」にオキナワハマサンゴ等の15種のサンゴ類が掲載されたことを受け、2017年6月26日から9月18日にかけて辺野古新基地建設に伴う埋め立てを予定している海域で生息状況を調査し、絶滅危惧Ⅱ類のオキナワハマサンゴ2群体、準絶滅危惧のヒメサンゴ12群体を発見した。
同局は、9月27日開かれた第9回環境監視等委員会に調査・確認結果の経緯を、「平成 29 年7 月5日から7 月22 日にかけて、オキナワハマサンゴ (2 群体)及びヒメサンゴ (12 群体)と思われるサンゴ類14群体を確認。これ14群体のうち、13群体のサンゴは調査時に白化が見られたことから、その生息状況を確認するため、8月18日、当該14群体について、再度確認調査を行ったところ、オキナワハマサンゴ1群体及びヒメサンゴ1群体の生存、オキナワハマサンゴ1群体及びヒメサンゴ5群体の死亡、ヒメサンゴ6群体の消失を確認。更に、9月1目、残るオキナワハマサンゴ1群体及びヒメサンゴ1群体について、再度確認調査を行ったところ、ヒメサンゴについては、藻類が付着し死亡が確認。 その後、9月18日に、残るオキナワハマサンゴ1群体について、再確認調査を行い、生息状況を確認」したと報告した。
沖縄防衛局は、サンゴの死滅・消失について、「オキナワハマサンゴ確認位置に近い K-l護岸及び K-2護岸施工時の汚濁防止枠を 2重化(オキナワハマサンゴ確認位置から離れているN-5護岸施工時の汚濁防止枠は 1重として計算)することにより、本サンゴ1群体周辺の水の濁りは、海藻類や魚介類に対する濁りの影響濃度に関する知見を基に設定され(水産用水基準(日本水産資源保護協会。2006) )、サンゴ類が生育する海域を含め、海上工事中の水の濁りの影響の環境監視基準として広く適用されている環境保全目標値 2mg/L を下回る結果が得られたことからすれば、当該施工に伴い、本サンゴ1群体の生息範囲には同値を超える濁りは拡散しないと予測され、その生息環境は保全されるものと認識」していると工事の影響を否定。その根拠としてK-1護岸、N-5護岸着手時及び完了時の流れの変化・水温の変化・塩分濃度の変化をあげた。こうしたことから「移植対象としているオキナワハマサンゴ1群体は、確認当初(7月5日)と比較して、その後の夏季の高水温による影響と考えられる白化現象(部分由化)が進んでいる状況が確認されている」と結論付け、「高水温が今後も継続する可能性があることを考慮すると、早急に移植することが有効と考えられる」ことから「本委員会終了後、再度生息状況を確認した上で、沖縄県に対し特別採捕許可申請を行い、許可が得られれば、速やかに移植するよう努める」と表明した。
委員からは「コントロールポイントとして、①実際の本群体のポイント、それから②工事海域のポイント、③工事海域から十分離れたポイント、④移植先のポイントという形で、例えばこれで、③のポイントもサンゴが死んでしまって、移植先でも死んでしまったら、全体の環境の悪化ということになりますね。ただ一方で、工事の海域や移植先で死んでいるけれども、③では生き残っていれば、工事の影響あるいは移植の影響が考えられるわけですから、周辺海域との比較で行わないと、工事の影響はどうかというのはわかりませんので、その点、今後の工事に際して十分注意してください。それから、現在一部白化しているサンゴを移植するということですけれども、もう9月になって水温が下がっていきますので、白化から回復している可能性が高いですが、白化したサンゴは弱っていますので、それを移植する際には、十分注意してください。今後も水温が下がっていくことからサンゴの生息状況を確認しながら移植するようにしてください」などの意見が出され、委員長は「水温のモニタリングをしっかりしなさいと、それからレファレンスの場所等適切に比較対照としながら、工事の影響を確認しながら進めていただきたいというところ。移植につきましては、サンゴの生息状況を確認しながら実施しなさいとの条件を頂きました。では、そのような条件を当委員会からの指導・助言として事務局に提示したい」とまとめている。

(3)沖縄県への報告の遅れを県は批判
沖縄県にはその翌日の9月28日に説明した。翁長知事は、「環境保全の視点を欠き、工事を優先する姿勢は大変遺憾だ」と批判し、▽サンゴの発見は7月だったが県への報告がなかった▽事前協議なくK9護岸に係船機能を持たせた施工をしている-ことを問題視し、サンゴの保全対策とK9護岸の実施設計に関する協議が調うまで工事を実施しないよう求めた。
県が沖縄防衛局に出した抗議文書は、留意事項に照らして不適切な内容として、「(1)事前協議が調わないままに工事に着手し、事業実施区域内で確認された環境省版海洋生物レッドリスト対象の2種14群体のサンゴ群体が7月に確認されたことについて県に報告しなかったこと。また、その保全対策を県と協議しなかったこと。(2) K -9護岸の施工において、事前協議を行わずに、当初の目的にはない係船機能を持たせた施工をしており、実施設計協議で示された設計内容と異なっている可能性があること」を指摘した。そのうえで、「(I)工事に係る県の立入調査に対し、速やかに応じること。(2) サンゴ類の環境保全対策について県と協議し、協議が調うまでは工事を再開しないこと。(3) K -9誕岸を桟橋として使用して海上運搬を行う件について、実施設計及び環境保全対策等について県と事前協議をやり直すこと。また、協議が調うまでは海上運搬を実施しないこと。」の3点を求めた。

(4)沖縄防衛局の特別採捕許可申請
申請書によれば、<採捕の期間>は、「許可の日から14日間のうちの1日使用」で、<漁具及び漁法>は、「潜水器使用による採捕(タガネ及びハンマーを用いた人力による採取)」としている。(サンゴ類移植に使用する船舶の一覧、採捕に従事する者の住所、氏名、潜水士免許証番号及び交付年月日も記載されているが、公開された申請書ではこの部分は黒塗りされている)
申請書に添付された「調査計画書」には、調査目的について次のように記載されている。

「目的
普天間飛行場代替施設建設事業の埋立等により消失する区域のうち、辺野古側において環境省「海洋生物レッドリスト(2017)J (以下「環境省レッドリスト」という。)に掲載されたオキナワハマサンゴ1群体の存在が確認されており、事業実施に伴う環境保全措置として当該サンゴ類の移植を実施することとしている。一方、サンゴ類の移植技術は、未だに十分に確立された状況にない。
当局は、公有水面埋立承認願書(平成25年3月22日付け沖防第1123号)に添付した環境保全に関し講じる措置を記載した図書(以下「環境保全図書」という。)において、「事業実施前に、移植・移築作業の手順、移植・移築先の環境条件やサンゴ類の種類による環境適応性、採捕したサンゴ類の仮置き・養生といった具体的方策について、専門家等の指導・助言を得」ることとして、貴職から埋立承認処分を受けており、上記「専門家等の指導・助言を得」るために設置された環境監視等委員会の第9回委員会(本年9月27日)において、本件特別採捕許可申請の対象であるオキナワハマサンゴ1群体を本申請書記載の方法で移植することについて、指導・助言を得たところである。
以上を踏まえ、本調査は、普天間飛行場代替施設建設事業の埋立等により消失する区域のうち、辺野古側で確認されたオキナワハマサンゴ1群体の移植を行うとともに、移植実施後の生息状況、成長度合いのモニタリング調査を実施することで、当該サンゴの移植の妥当性の評価を行い、その移植技術の向上を目指すものである。」

調査計画書は、「基本方針」として「当該サンゴの移植に当たっては、オキナワハマサンゴ(ハマサンゴ属)の特性及び環境保全図書の記載、平成27年7月の第4回環境監視等委員会資料「サンゴ類に関する環境保全措置【サンゴ類の移植・移築計画】」を踏まえ、環境監視等委員会の指導・助言を改めて得た結果、一般のサンゴ類と同様に、「これまで得られた現地調査結果の情報や、沖縄県のサンゴ移植マニュアル等の既往資料の情報を踏まえながら、環境が類似し、同様なサンゴ種が生息するとともに、移植先のサンゴ群生への影響が少ないと予測される場所を選定し、最も適切と考えられる手法による移植を実施。さらに、その後の生息状況を事後調査する。」方針」であると述べている。
「移植先の選定」については、「環境保全図書に記載した移植先想定地域のうち、同様の地形・地質と考えられる地点においてマンタ調査により底質状況、水深帯を観察し、移植元の環境と類似した場所において、定点調査を行い、同様のサンゴ種の分布状況を確認。調査の結果、移植元と環境が類似し、同様なサンゴ種が生息するとともに、移植先のサンゴ群生への影響が少ないと予測される場所として、「辺野古崎前面海域」を移植先とする計画。」と説明している。

沖縄防衛局は調査研究機関ではないから、「造礁サンゴ類の移植技術に関する試験研究」などありえず、「試験研究」として許可するのか疑問とする意見ももっともである。
実際、昨年、沖縄防衛局は、工事予定海域の生息する希少サンゴを発見しておきながら白化の進行を止める手立てもとらないまま放置し、死滅したあと県に報告した。このような不誠実さが続く限り、県民から信用されないのは当然だ。

(5)沖縄県は沖縄防衛局の移植許可申請で何を質したか
沖縄県が2月16日付でいったん許可したオキナワハマサンゴの特別採捕許可は、その後、食害が見つかり、事態が大きく変わった。最終的には、許可の延長ではなく、期限が切れたのだから失効とし、申請のやり直しを県は防衛局に求めた。この経過については、別の機会に取り上げたいと思うが、県が特別採捕許可を出すにあたって、防衛局との間でどのようなやり取りをしたかを見ておきたい。

【県の最初の質問文書】 
1 採捕対象となっている動植物について。
採捕対象となっているオキナワハマサンゴについて貴局で把握されている最新の状態を写真等を用いて具体的に説明してください。また、当該サンゴの状態が今回計画されている試験研究に与える影響について貴局の認識をお示しください。
2 採捕の期間について
 採捕に必要な期間について貴局で把握されている当該サンゴの最新の状態を踏まえたうえで採捕の期間、その設定理由、環境監視等委員会委員の指摘事項等の整合性について具体的に説明してください。
3 使用漁具及び漁法について
 当該サンゴの採捕方法について、今回計画した方法を別の方法と比較検討した経緯があれば、その検討結果を示してください。また試験研究結果に及ぼす採捕方法の影響を事後に評価する基準について具体的に説明してください。
その他、試験研究計画について
1 採捕対象サンゴの運搬方法について
 今回計画した方法を、別の手段と比較検討した経緯があれば、その検討結果を示してください。また、試験研究結果に及ぼす運搬方法の影響を事後に評価する基準について具体的に説明してください。
2 採捕サンゴの固定方法について
 今回計画した方法を、別の方法と比較検討した経緯があれば、その検討結果を示してください。また、試験研究結果に及ぼす固定方法の影響を事後に評価する基準について具体的に説明してください。
3 採捕対象サンゴの移植先の海域について
 サンゴ礁の地形構造の面から評価したうえで通常時以外も含め当該海域の波あたりや流れの特性に関する貴局の認識をお示しください。
4 採捕対象サンゴの移植先で確認されているオキナワハマサンゴ5群体について
 貴局で把握されている最新の状態を写真等を用いて具体的に説明してください。

【2度目の県質問】
日付は12月15日。
Ⅰ 本件許可申請について。
1 貴職は本件許可申請において試験研究の目的をオキナワハマサンゴの移植技術の向上とされておりますが、貴職が認識されている移植技術とはどのようなものか、具体的に説明願います。
2 採捕対象となっているオキナワハマサンゴの状況について
 回答書によると貴局では、許可申請書提出前までに少なくとも3回の確認を行っていたにも関わらず、許可申請書ではその事実が反映されることなく、部分白化が進んでいる状況が確認されていることを前提とした試験研究計画となっております。本件許可申請で掲げられている試験研究の目的からすると、本件サンゴの状況が少なからず試験研究結果に影響を与えることは至極当然のことであり、そのため本件サンゴが部分白化が進んでいる状況にあるのか、または白化からの回復傾向にあるのか、もしくは白化から回復していると考えられるのかによって試験研究の計画はおのずと異なるものと認識しております。本件許可申請を行うにあたり、本件サンゴの最新の状況を反映させなかった理由について説明願います。
3 回答書の1―2
 本件サンゴの状態は、すでに移植しうる状態まで回復していると考えているとありますが、本件サンゴの現在の状況が、今回計画されている試験研究に影響を与える状態にあるか、貴職の認識を説明願います。
Ⅱ 採捕の期間について
 採捕の期間について採捕の許可申請書では、「当該オキナワハマサンゴ1群体は部分白化が進んでいる状況が確認されている。高水温が今後も継続する可能性があることを考慮すると、早急に移植することが有効と考えられる。以上のことを踏まえると当該オキナワハマサンゴ1群体については、上記期間に移植することが望ましいと考えられる」とあり、回答書では、「許可を得た後、準備期間及び海象解消を考慮したうえで移植作業を行うために必要な期間として設定したものです」とされております。採捕の期間の設定については、いずれの考え方をとられたものなのか、改めて説明願います。
Ⅲ 使用漁具及び漁法、運搬方法、固定方法について
1 貴職は、使用漁具及び漁法、運搬方法、固定方法という今回の試験研究における各種方法に関し、回答書において「今回の採捕方法による移植が成功すれば、今回の採捕方法は適切であったと評価できる」とされておりますが、何を持って移植が成功したと判断されるのか、具体的に説明願います。
2 また、適切であったと評価できるとする根拠について説明願います。
3 貴職は、「仮に今回の採捕方法による移植が失敗した場合であっても採捕方法が不適切であったのか、移植先が不適切であったのか等は、ただちに判明できないものと認識している」とされておりますが、何を持って失敗と判断されるのか、具体的に説明願います。
4 その一方で、「いずれにせよ当局としては、移植作業後、本件サンゴの生存状況等を確認するモニタリング調査を行うこと」としており、「当該調査結果や採捕の方法について移植後、環境監視等委員会に報告し、その意見を踏まえて検証する」とありますが、何についてモニタリングを行うこととされているのか、具体的なモニタリング項目と、その検証方法について説明願います。
Ⅳ 採捕対象サンゴの移植先について
1 許可申請書参考資料1の6ページにおいてオキナワハマサンゴの移植にあたっての必要な環境配慮のなかで「特に本種は内湾的環境に生息し、波高が低い場所に分布することから波浪、潮流の影響を受けにくいと考えられる場所を選定するよう留意する」と指摘されております。本種は移植先とされている海域は、サンゴ礁における自然地理学的には、前方礁原(礁堡)にあたると認識しており、うち湾的環境には当たらないと理解しておりますが、貴職の認識を説明願います。
2 貴職は、回答書において別添3の資料を示すことで本件サンゴの移植先の固定位置について荒天時の状況を勘案しても適切なものと考えられるとされておりますが、本職は、当該資料の意味について移植対象種の生息環境を考慮してその適地を移植先と選定したうえで、さらに移植したサンゴ類の生存率低下に影響する高波浪等の影響を緩和する措置として検討されたものであり、移植先としての海域選定の直接的な考慮要件ではないと理解しておりますが、貴職の認識を説明願います。

これら二つの質問は、通り一遍の審査ではなく、法令にもとづいて一つひとつ厳格に判断する姿勢が貫かれていることを感じる。このことは、はっきり認識されるべきだろう。残念ながら、現段階では、防衛局の回答を入手できていない。しかし、環境監視等委員会で配布されている防衛局資料からは、県の質問にはまともに回答できなかったであろう。県の担当職員も「一般的な回答しかなかった」と述べているから、まともな回答と言えるものがなかったといいて、間違いはないだろう。そのことは、食害を受けたオキナワハマサンゴの件で沖縄防衛局は、採捕期間の延長を求めたが、県に環境監視等委員会の助言を得るべしと促され、県の言うことを受け入れざるを得なくなった。ここに、県の徹底審査が端的に表れている。
防衛局にしてみれば、1件のサンゴ移植許可に何カ月もかかる、1万7000あるというサンゴの移植に何年かかるのかという深刻な問題に発展せざるを得ないかもしれず、大きな不安をもったことであろう。むろん、これまで何度も違法無法を重ねてきた防衛局が、もうサンゴの移植をやめたといって、埋立に走るかもしれない。そうなればいよいよ政府は、深刻な事態に立ち入ることになる。
サンゴをまもるために採捕許可をしてほしくないとの思いは当然だが、国の違法無法とどうたたかうか、その角度から県行政を見る視点も必要と思う。